「キミの弱点は、すぐにかわいそうだと思って、自分から折れてしまうことだ」と、私は先日マーク・ライアンから言われました。マーク・ライアンは、エクストリーム・ムスタング・メークオーバーの2008年度の全米チャンピオンです。ムスタング・メークオーバーとは、ネバダで捕獲された、人の手にかかったことのない野性の馬ムスタングを、プロの馬のトレーナーたちがゼロから調教して競う、アメリカで有名な馬の競技大会です。
マーク・ライオンは一度落馬しましたが、それでもチャンピオンになっています。 落馬した時に、動揺せずに自分自身を保っているという姿が見えますが、クリニックの時、ずっと同じように柔和な態度で、厳しくもあり、でもとても優しい人でした。馬がこの人に喜んでついていくように見えるのが、不思議ではありません。ちなみにこの馬は、野生で捕獲されたムスタングだなんて信じられます?マークの手綱に注目。手綱はゆるゆるで手綱でコントロールしていません。
彼のクリニックに参加した時に、私の馬(サニー)は他のたくさんの馬たちやライダーの中で、ナーバスになって慌てだし暴走しました。私はとりあえず、その暴走を食い止めることができて、なんとか落馬せずにすんで安心していていると、馬に乗ったマークが私の横にスっと現れ、「フェンス沿いにもう一回暴走させてごらん」と言います。馬に暴走されるとめちゃ怖いんです。普通に早く走る状態ではなくて、馬が(こんにゃろ~~っ)と爆走するワケですから、とてもナチュラルな楽しい走りではありません。それを敢えて爆走するようにやってみろって言うんです、このあんちゃんは。
「フェンス沿いに爆走させるようにして、爆走を始めたらフェンスの方に馬を引っ張って止めてごらん」と彼は言います。私は「え~っ?だって、フェンスに突撃したらどうするの~?」と言うと、私の言っていることには耳を貸さず、「いいからやってごらん」と普通の顔をして、落ち着いて静かに言い放っています。
多数が参加しているクリニックで、彼の言葉はマイクでみんなに聞こえています。ここで「できない。いや、やだ、怖い、やりたくない」なんて言ったら、恥ずかしいという気持ちも多少ありました。でも、それよりもマークの顔を見て、(この人なら信頼できる。この人の言うことについて行こう)と思えたので、私は決心して「うん、分かった。やってみる」と、馬を敢えて暴走させてみました。と言っても、サニーを暴走させるのは簡単なんです。元々、静かにゆっくり歩くことのできない馬なので。
長方形のアリーナの長い辺のフェンスは150メートルくらいあるでしょうか、その左側をフェンス沿いにトロットから加速さえて、(ほい、走れ~~)っと氣をあげるとサニーは暴走します。そして、行き止まりに近くなったところで、左側のフェンスの方にサニーをぐっと引っ張りUターンさせるという訳です。
一回目やってみました。ぐっと引っ張りました。(このスピードで馬がフェンスに突撃したらどうなっちゃうのだろう?)という恐怖が一瞬よぎりました。その瞬間サニーは(いただきっ。オレの勝ち)と思ったかのように、反対方向の右にぐいっと首を振りました。私はその時(これ以上引っ張ったらかわいそうかも・・)と思ってしまい、バランスを崩して落馬。でも暴走しているところからの落馬でしたが、落ちるのに慣れているので(爆)、地面に近くなった頃を見計らって落ちたので大丈夫でした。みんな見てます。マークも見てます。だけど、誰も「大丈夫?」と駆け寄って来てはくれません。アメリカ人のヤツらは冷たいのか?日本だったらみんなが大丈夫~~?って言って、駆け寄って来てくれるんじゃないかと、私は一瞬思いました。しかし、このテキサスの荒野では誰も同情してくれない・・・。
しょうがないから私はそのまま馬を捕まえて、すぐにまたサニーに乗りました。馬に乗ってマークの近くに行くと、「なんであそこで躊躇したんだ?」と聞きます。「かわいそうだと思っちゃったの」と言うと、こんな風に言われました。「その先にあるのが絶壁だとしたら、そんな時でもキミは馬の口が痛くなってかわいそうだからと、馬をUターンさせないつもりかい?馬に乗るっていうことは、いつでも生死の境にいるっていうことなんだぜ。そういう本気がないと馬には通用しないんだよ。キミがヘタな同情で躊躇をすることで、馬もキミも両方死ぬんだぜ」と。
すっごい分かり易い喩えでした。「はい、その通りです」と私は答え、これで終わりかと思いきや、「よっし、じゃ、もう一回。はい、行っておいで」とマークに言われました。「ええ~~~、うっそ~~~、またやるの~~~」と私は黄色い声を出しましたが、マークの顔の表情を見ると、一向に動じていない様子。(うっ、負けた)仕方なく私は心の中で、絶壁に向かって走り出すイメージを作ってから、馬を走らせました。
サニーは暴走します。(よっしゃー、今度もまた振り落としてやるぞー)という勢いです。しかも、フェンス越しに走っているので、Uターンさせるスペースは1メートルくらいしかありません。でも今度は、私は(絶壁、絶壁、絶壁~ ここでUターンしなきゃ二人とも死ぬんだぞ~)と、サニーをフェンスに向けて急激なUターンをしました。そして(ああ、できたできた~)と安心しているのもつかの間、マークの声がスピーカーから聞こえてきます。「よっし、もう一回行け!」
私は「ウソでしょ~~」と叫びつつも馬を走らせました。その時にはもう恐怖はありませんでした。結局、マークから「もう一回」、「もう一回」と何度もやらされ、10回は同じことを繰り返しました。そして最後の方では、サニーは爆走するのをやめて、普通の馬のように大人しく走っていました。マークから「よっし、これで十分。こっちに来てごらん」と言われ、ギャラリーの人たちがいる前に行くと、私は彼らから拍手され、みんなが近くに来てくれて、「よく頑張ったね」、「勇敢だったね」、「ハラハラしたけどあなたならできるって思って見てたわ」など、温かい言葉の数々を浴びました。冷たいと思ったアメリカ人は、見守ってくれていたのです。(大丈夫?できないなら諦めてもいいよ)ではなく、(キミならできる。見てるから頑張って!)と見守ってくれていたのです。
マークは「キミはグッドライダーだと思ったから、無理なことをやらせても大丈夫だって思ってたんだよ。キミの馬はグランドでは一番よく躾されている。しかしキミに欠けていることが一つあるよ。馬じゃなくて、それはキミの問題だ」と言います。そして喩え話を始めました。
「高層ビルの屋上にいるとしよう。キミのことを嫌いなヤツがいて、そいつとケンカしたとする。するとそいつがキミのことを屋上から突き落とすんだ。キミはそんな時どうするかい?」と。「どうにもしようがないなぁ・・・あれ~~っ、何でそんなひどいことするの~?って落ちて死んじゃいます」と私が言うと、マイクで喋っているので他の人たちにも、この会話が聞こえていて人が笑っています。(なんで笑うんだろう?他に方法があるのかしら・・)と思っていると、マークは続けます。「え、ホントに?でもさ、キミのことを突き落としたヤツは殺人者なんだぜ。そんなヤツに、(何でそんなひどいことするの?)って思うだけでお終いなの?」と。「だって他に方法がないもの・・」と言ってマークを見ると、「ボクだったら、突き落としたヤツの手を鷲づかみにして、一緒に落としてやるね」と彼は言います。
そして、「キミの弱点は人が良すぎことだ。自分のことを突き落として殺そうとしている人(馬)に、どうしてそんなひどいことをするの?なーんて言っても、そいつは屁とも思わずに、ビルの屋上から落ちていくキミのことを笑って見てるんだぜ。落ちていくキミを見ながら、そいつは反省なんてしないんだぜ。ボクだったら、ボクを突き落としたヤツも一緒に道連れにして、地面に落ちて死ぬまでに、こんにゃろ~よくもこんなことしやがったな、って殴ってやるぜ」とニコニコしながら言っています。
多くの女性は、きっとマークのように自分を突き落とした人を道連れにするような、肝っ玉はないと思います。女性の場合、馬を扱う時に(こんにゃろ~)と思う気持ちになれないという、私と同じ問題にぶつかる人が多いでしょう。それでも、私よりも馬を優しく扱っている女性には、そうそう会いません。このクリニックの参加者を見ても、同じ女性でももっとバシバシ馬に接している人ばかりです。私は気が弱い訳ではないのですが、もし自分が馬だったらどう感じるだろう?こんな風に扱われたら嫌なんじゃないか?など、つい考え過ぎてしまう傾向があるのだと思います。できるだけ負荷を与えたくないと思うのは、きっと自分自身が繊細だからそう思うのだと思います。
私の馬の扱い方を見て、男の人たちには「優しすぎる」と笑われ、女友達には「あなたは女っぽいねえ~」と言われたことがあります。動物に対する接し方は、きっとその人の本質が出るでしょうから、本質的に私にはそういう部分があるのかもしれません。だから、実生活では悩みます。苦悩します。きっと顔や態度には出ないので、多くの人に強いと思われていることと思います。が、内面では感じていない訳ではないのです。周りで起こっていることを感じていて気づいているのですが、それを自分の中で消化させて強くあろうと努力しているんです。
それは私にはビジョンがあるからです。自分本位の目標において、達成したいことはないのですが、でも「こういう世界になったらいいな、そのために今、自分にできることがある。それを貫くために頑張ろう」と、思い続けていることがあるのです。でも、強固な人間でもないので、何年も続けている中では、色々と揺らぎながら悩みながら、行きつ戻りつしながらやっています。
6年くらい前に始めた英語本は、現在7000人以上の登録者の方々がいます。そして、チルドレン大学は600名以上の受講者の方々がいます。私には責任というか、まあ、そういうものもあるんでしょうねえ。決断が迫られる時も数多くあります。が、悩みながら、決断し、そして決断しては悩んでいます。若い時から悩む時はとことん悩みます。適当に気持ちを切り替えたりせずに、壁にぶつかったら底に行き着くまで悩み、底についたら上に蹴って這い上がります。でも、悩むというプロセスそのものが、自分自身の学びとなっていると心から思えるので、悩みさえもありがたいことです。ホント、人生って面白いね。
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で、馬のことですが、クリニックが終わってからマーク・ライアンに聞きました。彼はネブラスカに住んでいるのですが、「いつかネブラスカに1、2週間、修行させてもらいに行っていいかな?」と。そしたら・・・いいって。テキサスからは車でトコトコ行けば、2、3日です。息子と5月辺りにマークの牧場に修行しに行くことに相成りました。ホント、人生って面白いね。
化粧しろ、おばさん。サルバドール・ダリのような髭なんとかしてくれ、マーク。しかし、マーク・ライアンはめっちゃ性格のいい、裏表のない誠実で真っ直ぐそうなあんちゃんです。人にも馬にも平等でフェアー。人も馬のことも自分勝手な思い込みでジャッジしている様子は全くなし。そのままをそのまんま受け入れて、その時その時ベストを尽くしている感じが、顔から体全体から物腰から言葉から、彼そのものから伝わってきます。何かを極めてトップになれた人って、精神的に素晴らしい人が多いのでしょうね。きっと、そうじゃないと色々な問題をポジティブに、誠実にクリアーして前に進めないのでしょう。しかも人間的に優れた人じゃないと、馬がついて来ないだけじゃなくて、人だって助けてくれないはず。何もしないで立っているだけなのに、馬たちが自然と後をついていくような人は、あたしゃ信じるわ。アタイも頑張ろうっと。
P.S.
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マミーさん
マークさんのビデオ見て,感動しました。
マミーさんもすごい度胸ですね。
すばらしい!
投稿情報: Yukie Schmitz | 2010/03/24 08:31
Yukieさん
この馬が野生の馬だったなんて信じられないですよね。
実演を目の前で見たけど、ビデオよりも格段スムーズになってました。
私は結構怖いことするのが好きかもしれない、と最近自分で知りました。(笑)
怖いことをやってのけた後って、なんとも言えない気持ちの良さがあるんです。
投稿情報: マミ~ | 2010/03/24 13:59