マーク・ライアンが馬たちをトレーニングしている施設は、土田舎の真っ只中に忽然と現れる、綺麗で設備が整った乗馬クラブです。屋根つきの大きなアリーナの他、野外のアリーナもあり、馬房がずらーーっと並んでいます。マークは外を占領していて、個別にフェンスで境を作った馬房に、彼のクライアントの馬たちを入れています。外と言っても、馬たちが雨露をしのげる屋根も馬房の角に用意されていて、やはりきちんと整備されている所でした。
(馬のトレーナーって一体、どうやって生活しているのだろう?)って不思議になりません?顧客が多いトレーナーになれば、収入はどうもそんなに悪くないみたいです。クライアントはマークに調教してもらいたい馬たちを連れてきます。大概、若い馬でマークが訓致しているみたいです。大体、1ヶ月の調教で一月$1000。それには施設滞在も含まれます。
マークは施設をまたがりしている形になっているんですね。つまり施設は大家さんで、ここの施設にはマークの他にも数人トレーナーがいるみたい。施設とすれば、マークのように人気あるトレーナーがいれば、常に馬房を貸すことができます。マークは1頭辺り$300施設に払います。大体いつも10頭いるので、施設には$3000、マークには$7000という換算ですね。また、マークのように有名な競技会で優勝すると、アメリカ全国からのイベントに借り出されるようで、競技での賞金稼ぎ以外にも、イベントのスターとして収入を得られるみたいです。
アメリカは馬の調教でこんな風に仕事になって、生きていかれるんですね。日本の状況は分かりませんが、馬と関わって仕事をしたい方は、たとえものすごく調教の能力がある方でも、多分、それだけを仕事として生活するのは難しいのではないでしょうか(競馬の世界は分かりませんが・・)。
日本で能力のある方は、どうです?この際英語をガッツリ勉強して、アメリカに来てトレーナーになってしまうとか?絶対に適わない夢ではないと思います。日本で馬やっている人たちは、馬が大好きでもなかなかそれで生活ができないという、ジレンマがあるように想像します。でも、そもそも土地が小さいし、そして馬文化が違うので、それはそれで仕方がないのかもしれませんね。ということで日本脱出か?(笑)
さて、私の馬修行ですが、実は今回期待していたことは、馬にガッツリ乗る!ということで、調教そのものをマークから教えてもらうという目的ではありませんでした。ま、そもそも私にそこまでの能力もないのですが、それだけでなく、自分が行きたい方向はマークの調教の仕方とは違うと、なんとなく来る前から感じていました。
でも、ガッツリ乗るという目的は、こちらから頼まずにも120%達成させていただき、めちゃ怖い思いも120%させてもらって帰ってきました。尚、修行中、写真を撮ったりビデオを撮ったり、または少なくてもメモを取るくらいはしようと思っていましたが、もう、そんな余裕は全くなく、記録に残しているものがないため、私の記憶の中で強烈だった部分だけを書いてみようと思います。
大体が、マークのところでは午前中、午後と、次々と別な若い馬に乗らされていたので、彼らの名前さえどれがどれだったかなんて、全く頓着できないでいました。昨日と同じ馬か?と思って乗ると、動きが全然違うのでやっと違う馬だったと分かったり・・・。それにしても似すぎよ、キミたち・・という馬が何頭もおりました。
では昨日の日記に引き続き、マークの馬のディーゼルとのレッスンについて書いてみたいと思います。調教が施されていたのはディーゼルだけだったのですが、逆にレイニングもカッティングの調教も入っていて、めちゃチューニングがされている馬なので、動かない馬よりも、体の感覚が分かるまでは乗るのが難しい馬でした。例えば、レインをちょっと首に触れさせて、体重移動をするだけで、クルンクルン何回もスピンするのです。そんなに回らなくてもいいんですけどお、、っていうくらい。
初めてディーゼルに乗った時はメタメタにマークに説教されてやっつけられてしまった私ですが、一夜越して、頭の中でイメージトレーニングを重ね、そして気を引き締めてこの馬にもう一度乗らせてもらったら、あらまなんと、すんばらしい馬じゃないですか!なーんだ、馬がすごく調教されていれば、乗るだけなんて簡単じゃん。調教する人は、良い馬に乗って乗馬だけしているよりも難しいのだなあ、とつくづく思わされました。
歩いて、トロットして、駈足して・・・私が調子こいていると、マークが何やらアリーナでごそごそやっています。彼は調教している馬の後ろにオートバイのタイヤ(?)をロープをつけて引っ張り、アリーナにクネクネと道を描いています。そうやって、馬が怖がらない訓練しているのねえと思っていたら、(まあ、それはそれで調教だったのですが)、私にレッスンするために、道をクネクネ描いていたのでした。
オートバイのタイヤだと思うのですが、それを引きずって作られた道幅は70cmくらい。そのクネクネ道を一歩もはみ出さずに歩けとマークさんはおっしゃいます。そんなもん簡単だと侮っていたら、「手綱を使うな」との御指示が。え?足と尻だけですかい?ここからはみ出しちゃいけないんですかい?と思った途端、つい黄色い声で「無理~」とつい口走っておりました。
50歳近いおばさんから「できな~い」なんて声を出されても気色悪いだけだったでしょう。そんなもん誰も同情してくれません。ということで、マークには一瞥されたのみで、目だけで(いいから早くやれっ)という光線がバシバシ。ほんなんで(うっ、うっ、うっ・・)っとやり始めたら、最初でーんでん出来ないんですよ。両手使えないんですから。でもって、この馬のことよく知らないし。そして道がクネクネだし・・・。
なもんで、はみ出る度に遠くの方からマークは、「もしそれが橋だったら、落ちて死ぬぞー。本物の橋だったらどうするんだーっ?死ぬぞーっ!」という、親切なお言葉をたくさん浴びせてくださいました。ま、確かにここのトレイルにはそういう橋があるんです。その橋から馬が一足でも踏み外したら、人間共々落っこちて、人間の上に馬の体がドスンと落ちて、下敷きになったライダーは、ムギュっと一殺しされてしまうでしょうねえ。
しかし、難しい。いやあ、難しい。だから、余計に燃えてきてしまいました。私はいじめられるのが好きなのでしょうか。しかし、一度このモードにぬお~~っとギアが入ってしまいますと、私は他のことが一切目に入らなくなってしまう性格をしています。もう、マークに言われたからやっているんじゃなくて、逆に(うるさい、外野はひっこんでろ。できるようになるまで絶対やめないから。自分でやるからほっといてくれ)状態に突入。すると段々にディーゼルの体が読めるようになってきました。もし途中でマークがもうやめていいと言ったとしても、「いいや、止めないよ」と言っていたでしょう。でも、きっと彼自身も、めちゃ頑固な性格なはず。どっちにしても、私ができるようになるまでは止めさせてくれなかったと思います。
しかし、そっか~、ディーゼルはふくらはぎのところを少ーし触るだけでこのくらい動くんだあ・・もっとカーブしたかったら、その圧迫をちょっと重くすればいいんだあ・・と分かるようになったら、今度は自分の行きたい方向だけにフォーカスすれば、私の下半身の動きをディーゼルが感じてくれるようになりました。昨日は怖い馬だったのに、私さえ彼の体を感じてあげることができれば、こんなにもスムーズで馬もリラックスしてくれるなんて!またもや開眼の一日でありました。
この時から、私の中に初めて、(うちの馬のサニーもこんな風になってくれたら・・)という希望の火が灯されたのでありました。そ、つまり、自分の馬には何も期待してなくて、これまでは駄馬だから無理だよねって思っていただけだったんです。でも、馬じゃないんですね問題は。だとしたら、私が変われば馬の能力を引き出してあげられるのですね、きっと!ワクワク 頑張るどー。
(続く)

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