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馬と人間のコミュニケーションの世界をより良きものにするために
馬との関わり方など、テキサスから真摯に想いをシェアするべく書いて行きます。
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70歳のホースマン②
ニューイヤーズ・イブ、ラスティーの牧場では、広大な牧場の土地にごろごろころがっている朽ちた木を薪にして、大きな火が焚かれていた。轟々と焚かれた火の周りには、カウボーイハットをかぶった体の大きなテキサス人たちが、ミラーやバドワイザーを片手に持ち、たあいもないことを大声で話ししている。屋根だけある大きなメタルの納屋の下にはキッチンがあり、たたみ一畳くらいある大きな鉄板の上で、ハンバーガーの肉がジュウジュウ焼かれている。ここは何でも大きい。性能の悪い古いスピーカーからはカントリー・ミュージックが流れていて、これら全ての音がコンクリートのフロアーと金属の屋根の狭間で響き混ざり合っていた。雑音の中で大声で何を話しても、誰にも何も思われない粗雑とも言える大らかな空間が心地いい。
火の周りに行くとアレハンドロがいた。ビールを片手に完全にできあがっていた彼だが、一体何本のビールを飲むと酔っ払らえるのだろうか。アレハンドロやラスティーなど、私の周りに立っているカウボーイハットのおじさんたちの身長は、みな190cmはあると思われる。一人や二人でかい人がいるというのは異様ではないが、自分の周りを取り囲む人が全てでかいと、さすがに威圧感を感じる。もしエリマキトカゲのように何かを広げて大きく見せられるものなら、そうしたいくらいだ。しかし残念ながら物理的にそれをするには、脚立を持ってきて踏み台に立つくらいしか方法はない。仕方ないので気持ちだけ(なめんなよ)と思う。
カウボーイたちは人をからかって試すのが好きなようだ。入り込む隙間を見せるともっとからかわれる。まるで小学生の悪ガキどものよう。しかし俺は男だ的な体の大きいカウボーイの奥さんたちには、大人しくて静かで男にかしずくような女性が多いのかと思いきや、その真逆で、カウボーイたちは男たちに負けじと、からかわれたらからかい返すくらいの、気の強い女たちをリスペクトしているように見える。弱いものの上に立って優越感を感じているような者とは違う、男たちの自信が逆にうかがえる。男たちの遊びである言葉の応酬にいちいち憤慨したり、落ち込むような女性は仲間に入れてもらえない。さしずめ「カモーンかかってこい」と言われたら、手ごたえのあるジャブやパンチを返したら、イニシエーションのテストに合格し、彼らと横並びになって一緒にビールを飲めるといったところだろうか。
アレハンドロが言った。
「明日、キミの馬たちに一緒に乗ろう。俺が知っていることを教えてあげよう。馬とは会話するんだよ、会話。」
周りにいた男の一人が私の肩に腕を回して言った。
「いーっひっひ、このボケじじいの言うことをまともに聞いたらいかんぜ。ひひひ」。
アレハンドロが拳を握って、そいつをパンチしてやる格好を真似て遊んでいる。
ラスティーが横から「アレハンドロは昔から知っているけど、素晴らしいホースマンだから大丈夫だよ。ただし、明日までに酔いが醒めていれば、の話だけどな。あーっはっは。」と笑いながら私にウィンクをする。
どこの馬の骨とも分らんじいさんに、自分の馬に乗られることを心配しているかもしれないと、気を使ってくれている。でも大丈夫。アレハンドロと今日ちょっと一緒に過ごして、彼が馬の状態も考えずに、無理やり動かそうとする人じゃないことは分っていた。
アレハンドロは私に、マハティにロープと一緒にハミもつけて、手綱を持つようにアドバイスしてくれた際、こうしたらいいという指針を見せてくれた後、私が自分で考えて選択するまで待ってくれた。なので自分のやり方を押し付ける人ではなく、彼から考えるスペースを与えてもらったことはハッキリ分った。また私にノーと言われてもイエスと言われても、どちらでもジャッジはしないという姿勢だったと思う。傍にいたロレインは私がノーと言えないのではないかと気使ってくれて、「今日はまだその準備ができてないと思ったら、無理やりやらなくていいのよ。」と言ってくれた。「ありがとう。いやだったら嫌って言うから大丈夫よ。」と言って、私はアレハンドロの目を見て、「I trust you. あなたを信頼するわ。」と、その時に思ったことをそのまま言葉に出した。
マハティはハミを使って乗られたことは一回だけだったので、ハミの感触が分らず最初は首を色々な方向に振り、ハミから逃れようとしていた。でもフリーになる方法は一つ。私の指示に従うこと。それが伝わるようプレッシャー&リリースを繰り返す。馬は往々にして、プレッシャーから学ぶのではなくリリースから学ぶと思っている。人間の子どもも同じだと思う。厳しく体罰を与えられて学ぶのは、何かをしたら苦しいネガティブな結果が待っているということ。でもリリースで学ぶ場合は、何かをしたらポジティブな結果が待っている。その気持ち良さを幼い頃に繰り返し体験することで、自己効力感が育まれるのではないだろうか。
私がロープを持つ指と、ハミをつけた手綱を持つ指を変えて、ピアノを弾くみたいに指を動かせるような感覚が掴めてくると、マハティも自然と落ち着いてきた。薬指と小指で動かすハミだけで理解されない時は、中指と人差し指でロープをちょこちょこと動かすという風に、指を使い分ける手の感触は結構面白かった。この日、ウォーク、トロットをして、ウォーと止めて、左右にくるくる動かし、また後ろ足を動かすことと、前足を動かすところまで、ハミの感触でマハティに伝えることができたので、いいところでサっと乗るのをやめて、マハティに(できると気持ちいい)、(アリーナで人に乗られるのはいやなことではない)という記憶が残るところで終了。
一度に慌てて多くのことをさせるよりも、良い記憶を残させてあげることが大事だと思っている。とは言え、実際に馬が何を感じているのかは定かではない。次の日、ロープを持って近づいた時に、馬が逃げずに自分の方から私に近づいてくるかどうか、そのくらいしか証明できるものはない。自分は凄腕の調教師であると言っている人の馬が、ロープを引っぱらないと人間のリーダーについて歩いて来ないようなら、私は人間の言葉よりも馬を見て、その人が馬との信頼関係を口で言うほど築けていないと判断する。言葉じゃない。馬は言葉じゃ騙せない。そしてハンドルする人の在り方は、馬が全身で物語ってくれる。子は親の鏡と同じように。
アレハンドロはキミとマハティならできると言ってくれ、そして私が自らやると決心するまで待ってくれた。そのように自分を信頼してくれている人が、傍に立っているだけで安心感があった。このようなコミュニケーションは、時間によって築かれるものではなく、初めて会った人であっても昔から知っている人よりも、安心感を与えてもらえるのだから不思議だ。馬など動物はそういう風に感じているのかもしれない。私は、初めて会ったアレハンドロが信頼してくれいてることを感じ、私も彼を信頼した。なので自分一人では、先送りにしてやらなかったことができた。知らない馬に乗っても、その場でコミュニケーションがとれる人というのは、こういう安心感を馬に与えられる人なのだろう。
アレハンドロの人間に対する接し方が分ったので、私は彼が馬に乗った時にも同じように、馬に考えさせ選択をさせ、そしてその間、決して自分のペースを押し付けず、馬のペースを尊重する人に違いないと思っていた。馬に接する態度を見て、人にどうであるか想像できるのと同じように、人間に接する態度を見て、その人が馬に対してどうであるか想像できる。私が思うには人間の真実の”在り方”とは、対象が変われば変わってしまうものではなく、在り方とは誰が対象になっても、何を対象としても変わらぬものではないだろうか。対象が子どもであっても馬であっても同じ。動物にも人間にも同じ。対象が変わっても、自分自身の在り方は同じ。そして馬や子どもからは、”在り方”を見られている。
続く・・
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馬をやったことのない小娘が日本から生意気なことを言わせてください♪
いい男たちに囲まれたマミ~が想像出来ます。
人間観察、人間模様、人間道、なんていうのかわかりませんが、私はこういうの好きです。ゾクゾクします!
ちょっと思い出した光景があります。
私が航空会社に入社し、長い地上での訓練と実機訓練が終えたばかりの新人CAのころのことです。
新人CAは自分のポジション(担当ドア)をチーフパーサーに予めリクエストをした上で、その担当ポジションの勉強をし出社します。ところが私がリクエストしたポジションはもう一人の新人CAと重なってしまっており、CP(チーフパーサー)は私に他のドアをアサイン。しかもそのドアは通常はベテランが担当するドア。当時の私ならパニックになりそうな状況でしたが、その時はとても冷静にいられてました。それは、そのCPの器の大きさを瞬時に感じられ、任せてくださっていることに私も応えたい! 決して新人いじめではない心を瞬時に読み取れた心地よい瞬間を、ふっと思い出しました。
その後10年以上たった今、そのCPは会社で頭角をどんどん出し続け、私は3兄弟のママとなりましたが、今でもお互い人間道のような話を節目で行える関係を続けています。
馬はやったことないですが、マミ~からはいつも魂のところまでくすぐられる不思議な心地よさを感じています。いつも感謝しています。
今年もよろしくお願い申し上げます。
投稿情報: みなみ | 2011/01/11 23:38
みなみちゃん
読んでくれているの~?ありがと~。
今日、夫にみなみちゃんみたいに言ってくれている人がいるって自慢していたところ。
彼は私がどんなことを書いているのか、日本語を読めないから分らないので
私からの情報だけで判断しております。なので彼には良いことしか言っておりません。(笑)
最近、お仕事でのお付き合いとか、どうですか?
前よりも、上手くハンドルできているんじゃないかしら。
新宿の母ならぬ、テキサスの母はそんな気がしているのでした。
ま、仕事のお付き合いというよりも、子育てに忙しいのかな。(笑)
こちらこそ今年もよろしくです。
投稿情報: マミ~ | 2011/01/14 15:21