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馬と人間のコミュニケーションの世界をより良きものにするために
馬との関わり方など、テキサスから真摯に想いをシェアするべく書いて行きます。
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先週の日曜日、うちの夫は、英文学教授で出版社を経営している、オハイオに住む友人フィルの家にいた。夫はその出版社の編集を手伝っている。フィルの奥さんのエルサは、オーガニック野菜を地元の有志たちと一緒に育て、配送しているグループを仕切っている。
息子のDuganは、受かった大学を1年休学することにし、今年一年は自分でお金を貯めて、まずはボランティアをしながらヨーロッパ各地を周り、そして中東から北アフリカに行くつもりでいる。そのために今、ネブラスカの工事現場でフルタイムで働いている。自給10ドルから始まり、2週間後に11ドルに引き上げてもらい、そしてもうすぐ時給15ドルに引き上げてもらえるそうだ。
平穏無事な静かな日曜日。テキサスの自宅で一人で過ごす私は、朝、井戸から電気で汲み上げた水をスプリングクラーで庭に撒き、馬たちのトレーニングをする。自分だけの時間は寂しいと言うよりも、沈黙の時をたくさん持つことができるので、それはそれでエンジョイできる。万事順調な一日であるはずだった。
午後になり風がものすごく強くなってきた。一方からの風向きではなく、四方八方からの強風は、一体どちらの方向から吹いてきているのか分からない。一瞬4頭の馬たちが風に乗って、ヒューンっと飛ばされているイメージを空想して楽しんでいた。大きな馬が飛ばされることはないにしても、犬くらいは飛ばされてもおかしくないほど、強い風が吹き始めてきた。ブルブル。外に出てたら怖くなり家の中に戻る。
その後、ブログに馬日記を書く。そしてブログの更新をした直後に携帯が鳴った。いつもはテキストだけでコミュニケーションしているジェニーンからだったので、何か入用でもあるのかしら?と携帯にでる。
「ユキコ、今なにが起こっているか知ってる?」
「ええ?なんのこと?」
「まだ外を見てないの?」
「風が強いよね。竜巻でも来るの?」
「知らないの!?そこ、もうすぐ強制退避させられる地域なのよ。火事なの、火事。とにかく、今、外に行って見てきて。そして馬たちをどう移動させるか考えて。一回に何頭移動できる?」
「ちょ、ちょっと待って。今、強制退避って言ったよね?そこまで深刻な火事っていうこと?」と私はジェニーンに聞き返した。
「そうよ。たまたまFB(フェースブック)で発見したんだけど。時間がないわよ。もし全部の馬を一回で移動できなければ、残す馬たちにはスプレーペイントで自分の電話番号をボディーに書いてね。そして、何かあったら馬たちが逃げられるように、ゲートは開けておくのよ。馬たちは私の家に連れてきてもいいからね。どうするか決めたら、必ず連絡してちょうだい。」
言葉を既に失っていた私は、とにかく今、外に行って見て、そしてどういう手段をとるか考えてから、また後で連絡すると言って電話を切った。
外に出るとキャンプ・ファイヤーの臭いがする。見回すと南の方に巨大な黒い雲があった。いや、下から上に上っているから、あれは雲じゃない。火事の煙だ。しかもかなり近い。落ち着け、落ち着けと思えば思うほど、心臓の鼓動が早くなる。スー、ハーっと呼吸を整えつつ、オハイオにいる夫とネブラスカの息子に電話をする。
目の前の黒い煙を見ていない彼らに、言葉で今起こっていることを伝えようとするのは、意外と難しいことだった。自分の家が燃えるかもしれないとは、一瞬で飲み込める事実ではないだろう。しかし、どれほど深刻な事態であるか、電話口で長々と説明している時間はない。なので「なんでもいいから、今、すぐ、オンラインで何が起こっているのか調べておいて!」と言い、家の中に入る。
何から先に手をつけたらいいのか分からず、動揺している自分がいた。とりあえずサマードレスを着ていたので、ジーンズとシャツに着替え、馬たちをすぐに運べるよう、ブーツを履いておかなければいけない。こんな時、何が必要なんだろう?歯ブラシ?下着?いや、そんな身の回りの物など悠長に揃えている余裕はない。キャッシュを隠している本を本棚から引っ張りだし、現金を鷲づかみにして、ラップトップを入れたバックパックに押し入れる。
次は外に行って、馬たちを捕まえて馬運車に乗せなければいけない。うちの馬運車は2頭しか乗らないので、4頭いっぺんには連れて行かれない。なので大きな馬運車を持っているテリーに電話をする。しかし、馬運車を使って干草を運んできたばかりということで、干草を下ろしてからそちらに向かうとのこと。今からすぐに下ろすけど、もし間に合わなかった困るから、同時に他の人にも聞いてみるように言われた。
馬を捕まえようとロープを握り、これからどうしようかと頭は混乱した。オンラインで色々調べてくれている息子と夫から、交互に携帯に連絡が来る。「やっぱり避難した方がよさそうだね」と夫。息子からは「犬たちを絶対に連れてってよ!」と念を押された。犬たち3匹は車の座席にひょいと乗せればいいので問題はない。しかし、馬たちをどうするか、残る2頭をどうやって連れ出すか。
テリーも馬たちを連れてきていいと言っていたし、ジェニーンもそうオファーしてくれたけど、馴染みのある所の方が行き易いので、とりあえずラスティーの牧場に馬を連れて行き、私と犬たちは毎年、馬セミで日本から来ている人たちが滞在している、ラスティーの小屋を使わせてもらえるよう、今カナダに行っているラスティー夫妻に連絡する。彼らはたった今、火事のニュースを他の人から聞いたばかりということで、私たちが滞在することは二つ返事でOKしてくれた。
さて、馬を捕まえなければいけない。4頭とも異変には当然気付いていて、首を伸ばして緊張して、立ち昇る煙の方向を見ている。こんな時に馬が捕まらなくなってしまったら大変なことになる。頭を使え、頭を。この際、緊急の時に、どんな捕まえ方をしたって構わない。馬屋から餌を小さなバケツに入れて持ってきて、餌だよ~っとバケツをシャカシャカ振って馬を騙す。緊張している馬たちだったが、餌に釣られて寄ってきたので、まずはゼファラス(3歳半)にロープをかけ、馬運車の外につなぐ。その次にマハティ(もうすぐ4歳)を捕まえる。
馬運車に一人で若い馬2頭を入れるのは、もし一頭が怖がったりしたら、他の馬も怖がってしまい、“怖い”、“危ない”、というエネルギーの連鎖が広がってしまう。そうなったら馬たちを馬運車に乗せるのに、ものすごく時間がかかってしまうことになる。そんな最悪の事態を避けなければいけないと考え、前もって頭の中でイメージを作り呼吸を整える。が、心臓の鼓動は早いままコントロールできない。目から入ってくる煙の情報と、耳から入ってくる強風の音。そして、鼻から入ってくる煙の臭い。五感で感じる危険信号が、体を駆け巡っている。
自分自身のマインドをコントロールするという、ネガティブに考えることや、悪い想像などを断ち切り、マインドを白紙にすることは、それほど難しくないのだけど、それらを断ち切っても、動物である人間に組み込まれているのではないかとも思える、五感で感じる危険信号に反応してしまう、体の反応をもコントロールするのは難しい。火の中を歩いたりするインドの修行者を思い出す。
心臓の鼓動が胸を触らなくても、自分でも感じられるくらいバクバクしていたので、馬にそれを悟られていないわけはない。しかし、これ以上出せない本気で、「今、乗るべき。乗りなさい。乗る以外に道はない。」という、強固な意志を彼らに伝えると、他に道はないという本気が伝わったのか、ゼファラスとマハティの2頭は、幸いにもすんなりと馬運車に乗ってくれた。
馬たちの後は犬たち3匹を、トラックの助手席に押し込むように乗せる。犬たちは、もう何がなんだか分からない状態で、みんなでワタワタしていた。こんな時に犬たちに助手席で動かれたら、馬運車を運転しながらかなり危険なことになるので、「静かにしなさい!」と一括すると、なぜか彼らは叱られた幼稚園生たちのように、シュンとおとなしくしてくれた。
馬運車を繋いだトラックを運転し、1441という道路に出る前に、お隣さんが外に出ているのを見かけたので、急遽トラックを彼らの庭に突っ込み、なにが起こっているのか聞いてみた。お隣のご主人デイビッドは凶悪犯罪専門の刑事なので、ポリスの無線が入ってきている。彼が受け取った情報によると、風が北から南に吹いている限り、家の当たりには火の手はこないと思うが、今、数箇所で火事が起こり、そして強風が吹いているので、道路はあちこち避難する車で混み合っている。または既に封鎖されている所もある。但し北へ向かえば安心だし、エルギンの方から回っていけば、交通の問題はないだろうという情報をもらう。
その間、デイビットの無線からはひっきりなしに、警察官の間で連絡を取り合っている声が聞こえていた。デイビッドも含め、警察官たちも一大事だと慌てている様子がひしひしと伝わってきた。そのことで私は、この火事がただ事ではないことを確信する。
私は、サニーとルナを残してきているので、もし火事がこちらまで来て、デイビットたちも避難する状況になった時には、馬たちのゲートを開けて欲しいと頼むと、彼らはそんなことくらいお安い御用だと、気軽に引き受けてくれた。お隣さんの場合は、奥さんとご主人だけなので、危ない、逃げろっとなった時には、車にサッと乗り込み逃げれば済むが、うちの場合は、馬4頭を動かさなければいけないので、最後の最後まで待ってから逃げるということができない。
私はとりあえず、馬2頭、犬3匹を連れて北に向けて出発すると、走っている車のすぐ右手に大きく立ち昇る炎が見えた。我が家の前には大きな煙の山、そして裏手にも火が上がっていたことをこの目で見た時、残してきたサニーとルナのことを考えて涙が出てきた。その日、ブログに書いた日記で、私が一番心を寄せている馬は、実は最も駄馬のサニーであったと自分で気付いたばかり。それなのになぜ、一番愛している馬を残してきたのか?
私はサニーが一番好きだし、もし4頭いなくなったら、いなくて一番寂しく感じるのはサニーに違いない。にも関わらず、私が咄嗟に4頭の中から選んで連れてきた馬たちは、ゼファラスとマハティの若い2頭であった。トラックを運転しながら、なぜ若い2頭を迷いなく選んだのか?躊躇も考慮もさほどなく、なぜ若い2頭を選んだのか?思いつく理由は一つだけしかなかった。
それは、「緊急時に多くの命を守ろうとする時に、若い命から守ろうとするのが、生きるものの本能なのかもしれない。」ということ。なぜ、本能だと思ったかと言うと、私はそのように行動した時の状態は、ほとんど自動的だったから。そんなことを考えながら、心の中でサニーとルナに謝ると同時に、(待っててよ。待っててよ。すぐに迎えに帰ってくるからね。)と急いでトラックを走らせていた。
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