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馬と人間のコミュニケーションの世界をより良きものにするために
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願力と馬力(はじめに)
願力と馬力(1)
願力と馬力(6)
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新たに削蹄師さんを探していたところ、ジェリーの所にタイミングよく削蹄師が来るということだったので、ジェリーの家から約6キロほどしか離れていない我が家に、帰りに寄ってもらうことになった。私の元に来るまで放牧地で野放しにされたまま、人の手が一切施されてなかったルーミーだが、随分と慣れてきて、前足・後足を裏堀しても、ジッとその場に立っているようになったので、削蹄してもらう準備はOK。
削蹄師によっては、足を上げさせない馬をロープで縛り付けて、馬が動けないようにしてやる人もいる。私自身、そういう場面に何回か出くわして目の前で見たことがある。やっている本人たちはもちろん虐待とは思っていないと思うが、何も知らない人が旗から見たら、虐待しているようにしか見えない場面もあると思う。私が知る装蹄師の一人は、普段から自分の馬も手荒く扱っている自称カウボーイで、見た時、さも得意気にやっていたので、ロープで馬を縛り上げるという、力づくで大きな動物を支配する行為を楽しんでいたかもしれない。
ロープを使って縛っても、それでも手こずる場合、鎮静剤を注射する場合もあるらしい。知り合いの装蹄師が暴れる馬に鎮静剤を打ったところ、馬が急性アレルギー反応を起こして、注射した途端に装蹄師の体の上にドサっと倒れ、口から泡を吹いたらしい。それで装蹄師の知り合いは大怪我をしたことがあるという話を聞いた。その時、馬のオーナーは激怒したらしいが、これは削蹄師の問題だけではないと思う。普段から躾をしていない持ち主にも大いに責任あるのではないだろうか。装蹄師さんの仕事は装蹄や削蹄であって、調教は彼らの仕事ではないのだから。
装蹄師がいくら馬の扱いに慣れていると言っても、ルーミーが大人しく削蹄するための躾は人に任せられない。そのためルーミーの削蹄は、家でじっくりと躾をしてからにしようと私は考えていた。しかし人間で言えば、家で躾をしていない子どもを学校の先生に任せて、先生に勉強を教えてもらうだけでなく、躾までしてもらって当然と考えている、思い違いをしている親と同じで、馬の世界でも馬の躾を自分で責任を持ってやっていない人もいる。
削蹄師のデイビッドと奥さんのクリスティーが家に来た。二人とも人に圧迫感を与えない、まろやかな優しい空気を放っている印象だった。それはうちの馬たちの様子を見れば一目瞭然で、彼らは初めて会うデイビッドとクリスティーが近くに寄ってきても、一向に緊張している様子はなかった。
デイビッドは「今日はどの子の削蹄かな?」と言いながら、周りの空気を包み込むようにゆっくりとした動きで馬たちを観察している。側にいる人間の私でさえも、彼からかもし出されている空気の輪の中にいれば、何も心配することはないという安心感を感じたほどだ。「とりあえず、削蹄が必要なのはこの子で、他の子は今すぐでなくても大丈夫かどうか、後で見て判断してください。」とデイビッドに言い、私はルーミーの横に立った。そして、この人なら任せられると感じたので、特に細かいことは言わなかった。任せられないと感じたらきっと、どういう削蹄をするのか?角度はどうなのか?などなど、テクニカルな質問をたくさんしていたと思う。
馬の命は足。No Feet No Horse。削蹄は馬の命を左右すると言っていいほど重要なこと。蹄が健康に保たれなければ、それが足に来て、そして体全体に現れ、馬の行動にまで結びついてくると言っても過言ではないと思う。人間でも身体全体のハーモニーと人の性格など、一人の人間が健康であるためには、身体と心は切り離しては考えられないと思うのだけど、身体と心が一体であると考えている人ばかりではないのだから、自身の身体のことでそうであれば、馬の蹄と行動は非情に密接があると、理解している人ばかりではないだろう。
さて、ルーミーは私には慣れているけど、人間のことをいつもジーっと観察していて、(この人はいいけど、あの人はいや)というように、珍しいとも思えるほど人見知りが激しい。どの馬からもすぐに信頼され、しばらくの間、面倒を見てもらって餌をもらっていたロニーにさえ、ルーミーは身を任せようとはしなかったし、毎日牧草を与えてもらっていたトムにも、彼女は頑な態度をちょくちょく見せていた。
しかし、デイビッドがルーミーの横に立って、彼女のお尻に腕を回していても、ルーミーは静かに落ち着いている。デイビッドは背が高くて体が大きいにも関わらず、彼の気配というものを私もあまりにも感じなかったので、(この人は必要とあらば自分の氣を消せる人に違いない)と無意識に感じた。マインドの中から「意図」を消せる人でなければ、気配を消すことはできないことを、私は馬から教えてもらって知っている。そして、「氣を出す・消す」ことをコントロールできる人は、マインドの在り方が修養されていると思っている。侍であれば、「お主、できるな」と言いたくなる相手だ。
デイビッドは早速、削蹄を始めるとこう言った。「ロープで繋いで持ってなくても削蹄させてくれるなんて、随分と躾のできた子だね。小さなことだけど、こういうことが普段やっていることを物語っているんだよ。」と褒めてくれた。そして「こういう風に馬を育ててくれてありがとう。キミには分からないかもしれないが、これはボクにとってはとても大きな意味のあることなんだ。」と言った。
聞くと、彼はコルト・スターティング(子馬の馴致)のスペシャリストらしい。特にルーミーの血統のペッピーの血(Peppy San Badger)は、普通の馴致ではなかなか上手くいかないと言っていた。しかし、「ボクはこのスピリテッドな血統が一番好きなんだ。この子たちはファイターなんだよ。だから、こういう子たちには支配して調教するのは無駄。ファイターだから死ぬまで諦めないからね。」と言う。「それじゃあ、どうやったらこういう子を馴致して乗れるのようになるのですか?」と質問すると、「力で支配するのではなくて、優しく教育して、親切にして支配するんだよ(Kill with Kindness)。」と彼は言った。
実際、ルーミーは削蹄されている間、彼女の命である足を(馬は逃げるための足が命)デイビッドに預けていても、大人しく微動だにせず、完全にリラックスしているように見える。馬の姿が全てを物語っている。私はやっとルーミーを扱える人に出会った!と心が小躍りしていた。実はルーミーの馴致ではことごとく失敗してきたのだ。家に来てからルーミーは既に、3人の馴致経験者を怪我させていた。
はじめはトムが怪我をした。彼は腰を痛めた。その次にはロニー。プロのローパーの彼は馬から落ちたのは4年ぶりだと言っていた。ロニーは膝を怪我した。3人目はウォルターという若いトレーナーで、その日は大丈夫そうに見えていたのだが、後から聞いたら腕を怪我していた。ウォルターは日頃から飛び跳ねる馬の調教をやっていて、そういう馬に乗ることを得意とする運動神経のいい若い兄ちゃんだ。それでもルーミーはまるでロデオ馬のように飛び跳ね、ものすごい勢いで彼を振り落とした。ルーミーがグランドであまりにも大人しいものだから、私たちはみな、彼女はもう準備ができていて、乗っても大丈夫だろうと思わされた結果だった。
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